<神戸事件報道>

神戸事件について「A少年の冤罪を“控えめながら実はハッキリと”主張する報道」は以下に紹介する以外にも静岡新聞JAPAN TIMES、週刊金曜日、諸君、その他があるが、早稲田大学新聞が最も詳しい。

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テキスト ボックス:  
早稲田出版 \1,700税別

琉球新報 200167  

安部治夫監修 小林紀興  真相・神戸市小学校生惨殺遺棄事件

酒鬼薔薇聖斗はほかにいる

稲嶺京子(いなみね きょうこ) 1948年千葉県生まれ。りゅうせき美術賞展プロデューサー、玉城盛義伝「琉球舞踊の生涯」、「稲嶺一郎回顧録」「世界を舞台に」など編さん。イムス社長。

 

 神戸須磨区の「酒鬼薔薇聖斗」事件から4年。逮捕されたA少年は今、関東医療少年院の独房にいる。あれから少年事件は後を絶たず、むしろ増えている。そしてその都度、神戸A少年と比較されてきた。しかし、これが冤罪だとしたら、こうした比較分析は何の意味があるだろう。

 事件直後、被害者・淳君の頭部発見現場にはメディアが殺到。取材合戦のすごさに目を見張った。「黒いビニール袋を持った中年の男」「中学校の正面前に停車していた黒のブルーバード」等。複数住民の目撃証言が何度も映った。また、犯人・酒鬼薔薇聖斗の挑戦状「懲役十三年」は、高度な文章力を持つ人物だった。専門家もそう語っていた。

 しかし、事件発生から一ヵ月後に逮捕されたのは、14歳の中学生だった。住民の目撃証言やあの挑戦状からは、およそかけ離れた犯人で違和感がありすぎた。でありながらマスコミは、ビニール袋の中年男や黒い車も、挑戦状の投函場所など多くの疑問をすっ飛ばし、松本サリン事件同様、どこも裏付け取材の形跡のない警察情報垂れ流しと思われる同じ情報に終始。A少年犯人が真実と報道。

 その後、同事件に関する書籍が続々と出版、話題になった。それでも日々の忙しさに追われ、読まずに2年が過ぎた。そんなとき怪我で手術入院。ヒマができた。それで仕方なしの読書三昧になった。このとき病院の本棚から借りたのが、前年発刊の文藝春秋だった。これには神戸事件のスクープ記事、ジャーナリスト立花隆氏の紹介で「A少年の供述調書」が掲載されていた。これを読んだとき、言いようのない不快感を感じた。理屈以前に感じる消化不良のもやもや感、それはノンフィクション物を書くときに必ず起こる、嗅覚のようなものだ。明らかに何かが違うと感じ、原点に戻って詳細を調べる気になった。

 退院後、早速、神戸事件に関する情報や雑誌を集めたが、それらはすべてA少年犯人を前提に書かれていた。結局不快感は払拭されず、最後にたどり着いたのが、「神戸事件の真相を究明する会」という市民団体発行の冊子だった。これに愕然とし、すぐに発行元に問い合わせて続集をすべて取り寄せた。すでに第七集まであった。また、これら冊子の総集編となる書籍「真相」を書店に注文した。

 彼らはこの事件を緻密に調査分析し、冤罪の確信を積み上げていた。しかも、驚いたのは、この組織を引っ張ってきたのは神戸事件の担当弁護士でなく、後藤昌次郎弁護士だった。

罷免事件として有名な松川事件や免田事件で無罪判決を勝ち取った人だ。ほかにも、冤罪研究で権威ある浅野健一同志社大教授や、アメリカ施政下の沖縄の陪審裁判「逆転」の著者・伊佐千尋氏なども告発人に名を連ねていた。同組織は沖縄も含め全国に及び、冤罪からA少年を救うべく活動を続けている。それを横目に、真犯人はどこかで自由に暮らしている。恐ろしいことだ。

 

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毎日新聞・東京夕刊  2001925

牧太郎の「ここだ

「酒鬼薔薇」は少年A?

 

 約1ヶ月前、その欄で「『神経質に過ぎるゾ』と思いながら“テロの不安”を感じる」と書いた。それなのに、同時テロが現実になった先週「ばかばかしいお笑いで……」と落語家の“ギネス挑戦”を書いた。

 数人の読者から「なぜテロ事件に触れないのか」と、おしかりを受けた。戦場に行くより落語を楽しんだ方がよい――と言わんばかりの調子に「不謹慎」と思われたのだろう。

 しかし、である。新聞が「明日にも核戦争が起こる」かのように隅から隅まで同時テロ関連記事で埋まるのは、どうだろうか。それでなくても、超大事件の陰に隠れて「かなり大事なこと」が霧散している。特殊法人見直し、外務省の巨悪追及……一人ぐらいは「超大事件」以外のことを書いたってよいじゃないか。

 後藤昌次郎弁護士が「諸君!」10月号に「少年Aは推定無罪!」という一文を寄せている。

 97年、神戸市須磨区で起こった酒鬼薔薇事件。何者かが、小学校6年の児童を絞殺し、切断した頭部を中学校の正門前に置いた。それこそ、当時はこの事件以外に報道するものがないような大騒ぎだった。

 当時14歳の少年Aが容疑者として逮捕された。本人の自白もあり、日本中が少年Aの仕業と思っているのだが、後藤弁護士は「本当に彼が犯人か?」と疑問を投げかけている。後藤弁護士はご存じ、松川事件、八海事件、青梅事件、皆生事件、日石・土田邸爆破事件で冤罪を勝ち取った敏腕弁護士である。

 最も証拠価値が高い「犯人の声明文」と少年Aの筆跡を鑑定した兵庫県警科捜研は「同一人物のものかどうか判断するのは困難である」と結論を出した。にもかかわらず、警察は「筆跡が同一だった」とうそを言い、自暴自棄になった少年Aは自白した。この事件、自白だけが唯一の証拠なのだ、と後藤弁護士は主張する。ここだけの話だが、冤罪を疑わせる点はこれ以外にもある。

 個人ホームページで後藤弁護士の主張を紹介した掲示板に反応があった。「法曹界では冤罪という認識が強い」という“書き込み”もある。もし冤罪だったら。過去の大事件にも「報じられる権利」がある。  【編集委員】

牧太郎のホームページ: http://www.maki-taro.net/

 

/E